'12読書日記30冊目『モナルコマキ』R.トロイマン

モナルコマキ―人民主権論の原流 (1976年)

モナルコマキ―人民主権論の原流 (1976年)

124p
総計8289p
「モナルコマキ」というのは、いわゆる「君主放伐論者」らの総称である。君主放伐論は16世紀後半に勃興したのだが、それによれば、君主の主権は人民と君主との統治契約に基づくものであり、その契約に違反するような統治を君主がした場合には、君主を主権の座から引きずり下ろし、それを殺害しても良い"権利"を人民が持つ、というものである。社会(結合)契約と違って、統治契約論では諸個人の権利の保護に眼目があるのではなく、人民が君主に対して優位しているということ、君主も人民の中の一人であり国家は全体的な統一を持っているということ、これらのことに論争的意義がある。
筆者はモナルコマキを、過渡期的な――王権神授説から社会契約論への――性格を持つものであり、事柄上理論的な曖昧さをはらんでいると指摘しているが、実際、モナルコマキの政治的位置は複雑である。というのも、この時期(16C)はカトリック教会の権威が下落しつつある時代でもあり、モナルコマキを唱えた論者らにも、カトリックプロテスタント的な宗教色の強い議論をするものもいれば、国家の世俗的権威を自明視しつつ議論するものもいたからである。2つの権力、宗教的権力と世俗的権力の並存という不可思議で緊張をはらんだ状況から、近代へ至る過渡期にモナルコマキは位置していたと見ていいだろう。もちろんモナルコマキは、君主制を否定するわけではないが、そこに「契約の遵守」という法的制約を要求する。この位置から、啓蒙専制君主――例えばフリードリヒ大王――までは、あと一歩だという気がする。