'15読書日記7冊目 "Kant's Politics in Context" Reidar Maliks

Kant's Politics in Context

Kant's Politics in Context

タイトル通りの研究は、特にカントを中心にしたものは、これが英米圏で最初のものだろう。Elizabeth Ellisは10年前に"Kant's politics: Provisional Theory for an Uncertain World"のなかで、カントの政治思想を歴史的コンテクストに位置づけると序文で書いていたが、実際出てきたものはそれほど歴史的な研究ではなかった。本書が見すえるのは、1790年代、とくにフランス革命以降のプロイセンの政治的言説とカントの関係である。手際よい分類だと思われるが、筆者マリクスは、当時の思想潮流をメーザー、ガルヴェ、ゲンツ、レーベルクらが属している保守主義と、カントの『純粋理性批判』『実践理性批判』に知的に陶冶され、フランス革命の信奉者となったラディカル派――フィヒテ、ヤーコブ、ハイデンライヒ、エアハルト、ボウテルヴェク、ベルク、シュレーゲル――に区分し、そのあいだにカントを位置づけるのである。豊富な一次文献を参照しながら、カントの哲学をコンテクストの中に位置づけていく整理の仕方は非常に見通しが良い。カントが本格的に政治に関して論じ始めるのは1793年『理論と実践』からだが、それ以前に言わば代理戦争として、ラディカル派がみずからカント哲学を発展させたものとして政治哲学を論じ、フランス革命を保守派の批判から擁護したのだった。しかし、カント自身が提示したものはラディカル派を失望させかねない(というか失望させた)ものだった。カントに対してはその後の『永遠平和』に対しても保守派、ラディカル派から批判があり、最終的に『人倫の形而上学・法論』でカントはそれらに――明白にも暗黙のうちにも――応答した、というのがマリクスの見立てである。170頁ほどの薄い本ながら、非常にうまく論点が整理されており、勉強になる部分が多々あった。僕としてはプロイセンの法改革への言及が少なく、また当時のいわゆる政治学者(Staatslehrer)への言及も少ないため、不服に思う部分もあるが、十分に興味深く、これから一層の研究の進展を予期させるものとなっている。筆者は代表制理論で著名なNadia Urbinatiとトマス・ポッゲの弟子であり、政治思想史への十分な知識も伴って、プロイセンにとどまらず広い歴史的な視野からホッブズやルソー、シェイエスらも含めて論じており、カント研究だけでなく一般性も兼ね備えた著作になっている。目次は以下。

Introduction: Kant in the Public Sphere
1. Before the Revolution
Debates about State Legitimacy
Kant on Moral Agency in History
The Debate with Herder
The Path to the Principle of Right
2. Freedom and Equality
The French Revolution in the German Public Sphere
Kant's Initial View of Equal Freedom
Conservative Critics
Kant's Final View
3. Political Rights
Debates about Citizenship
Kant's Initial View of the Right to Vote
Radical Critics
Kant's Final View
4. Resistance and Revolution
Devates about Resistance to Despotism
Kant's Initial View of Resistance and Revolution
Radical Critics
Kant's Final View
5. War and Peace
Debates about War
Kant's Initial View of the Right of Nations
Debating Perpetual Peace
Kant's Final View
Conclusion: After the Revolution