センセーショナルな内容を描く書物。筆致は不穏なほど静かで、
服従せざるを得ないことどもへの諦念がある。
ウェルベックは現代作家で最も読ませる作家の一人だと思うし、今作も
偽史的想像力が遺憾なく発揮されているが、諦念への深さが足りないというか、諦念から
服従へのプロセスに諦念に基づく抵抗がないというか、そのような不満が残る。
イスラーム政権がフランスで発足し、ヨーロッパの理念がその外部である
イスラームからもたらされ、ひいてはローマ<帝国>の再建さえも視野に入れた運動が始まっていく、というこうした
偽史的想像力の熱量に反して、
ユイスマンスの研究者である語り手は常に外部に取り残され、常に振り回される存在である。
偽史的な未来の描写と語り手の内省的で静かな生活が、絡まっているようで(もちろんストーリー上絡まっているのだが)、絡まっておらず、歯がゆさがある。