07読書日記20冊目 「さようなら、私の本よ!」大江健三郎
大江健三郎です。なんだかんだで馬鹿にする奴は一回彼の小説を読んでから論壇に上がってこいよ。
- 作者: 大江健三郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/09/30
- メディア: 単行本
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もはや晩年の作品=レイター・ワークも佳境に入ってきた作品。「おかしな二人組み」を軸に描かれるunbuild/build計画。
もう老人の知恵などは聞きたくない、むしろ老人の愚行が聞きたい
不安と狂気に対する老人の恐怖心が
というエリオットの詩から着想を得たと思われる「おかしな二人組み(スゥエード・カップル)」が、世界の巨大な暴力に対抗して、この暴力を造り上げて世界を変えていく、それは誰一人として死なしめてはならないものであった。しかし、最終的に、アンチクライマクスに終わる計画と、不本意な一人の若者の死によって「平和主義」も「戦後民主主義」も壊滅する。この絶望から読者は何を見出せば良いのか。作者は何を提示しているのか。ずるいと思えるように、カタルシスをあえて提示しなかった大江は、本気で勝負に出ているのだと思う。それは「平和主義」でも「戦後民主主義」でもなく、新たな予言的行動、未来へとつながるような若者の創出なのかもしれない。最後のナラティブの急展開、それにともなって読者に思考を義務付けるかのような計画は成功していると思う。(もう少し短い話にまとめられた気もしないではないが)。「絶望から始まる希望」と書かれた帯、絶望はもはや我々の前にすでに投げ出されていて、そこからどうやって限られた希望を希求し、それを成功させるのか、それを思考するのが、我々の課題だといわんばかりに。
p467
総計5895p