07読書日記61冊目 「シティ・オブ・グラス」オースター


シティ・オヴ・グラス (角川文庫)

シティ・オヴ・グラス (角川文庫)


この作品を含む、「鍵のかかった部屋」「幽霊たち」はニューヨーク三部作と呼ばれている。「鍵のかかった部屋」は読んでいないが、おそらく似たような主題を持つ作品なのだろう。


ニューヨークという非存在の街、この非存在というのは自らの実存があやふやになる、という意味でだが、この街で自らが自らを探し求めて、消え去って言ってしまう物語群。


オースターの作品はポストモダンを体現しつつも、文学の伝統的な主題である「自ら」を突き詰めた作品が多い。アメリカという他者に紛れて自らがあやふやになりかねない場所を舞台にした作品である。それらは、日本にいる読者にも適切なヴォイスをもって呼びかけるし、感応を喚起するものでもあるだろう。


さらにこの小説の優れたところ、文学の面白みを増している部分がある。それは、「謎解き」の要素である。ドンキホーテの対比、バベルの塔の隠喩など、言葉を巡る危うさ、そして主人公自らがこの物語を仕掛けたのではないかという謎!そして、この主人公クィンの心理の揺れを表現する三人称、そして最終末での語り手の登場、これらのポリフォニな語りが、さらに謎を多層化しているのである。


208p

総計 17325p