08読書日記31冊目 「杳子・妻隠」古井由吉

杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)

杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)

この人のタイトルは何て読むんか分からんのが多い。

これは「ようこ・つまごみ」と読む。なんというか、読んでいて感覚が鈍らされる、というか、深い底に降りていって戻ってこれないような不気味さを感じた。語り手の不確実性から去来する、こういった怪しげな感覚は、これまで味わったことの無いものだ。平易な文章で、それでいて深いところに降りていく所作は見事であろう。(本来あった意味がシステム化された、という言質で)意味の失われた世界こそが社会であるとしたら、そこでありとあらゆる物象・動作に意味を見出そうとするものは、病的にならざるをえない。しかし、あらゆる物象に対して他者と峻別するということや、意味を見出そうとする心理的な働きかけを「認識」と呼ぶのであるなら、本来的な意味で「認識」を行いうる者こそ、「健康」なのではないか、とも思えるが、一般通念上、そのような「健康性」は「病理的」と診断されうるものなのだ。

264p
総計8210p