08読書日記99冊目 「近代―未完のプロジェクト」ハーバーマス

近代―未完のプロジェクト (岩波現代文庫―学術)

近代―未完のプロジェクト (岩波現代文庫―学術)

ハーバーマスによる、主に新聞や論壇誌に乗った割りにジャーナリスティックな論文集。

1980年代から90年代前期にかけての論文集であるが、事実、ドイツと日本は第二次大戦の敗戦国であり、ともに戦中はファシズム国家を持っていた、しかもナチスと、南京大虐殺や集団自決の問題など、アレゴリカルに捉えられることができるので、興味深い。ポスト・モダン期においての左翼的知識人の役割や、歴史問題、ナショナリズムの問題などを批判的に論じている。

彼は、閉じたヨーロッパ世界における公衆の議論を前提とした、ある意味でユートピア論者だと見られることも少なくないが、彼の批判的な見方は、ユートピアを提出しつつも、そこに近づけない現実的な諸要素を分析するという点で、今日でも読むに値すると思う。特に、表題ともなっている論文「近代 未完のプロジェクト」においては、啓蒙的理性が専門化し、もはやそこに大衆がアクセスできなくなってしまった、その理由を芸術的媒介の不在という角度から分析している。京大の佐藤卓巳という教育社会学者は、ハーバーマスの公共圏においては美的融和が鑑みられていないため、実際に公衆はアクセスできない、という無知な批判を行っているが、ハーバーマスは確かに芸術についても考察を加えている。文化的伝統がなければ、コミュニケーション的な日常実践が不可能であること考察しているのである。美学者でもあったアドルノが「芸術を拒否しながら、芸術をふりきることができない」と言うとき、アドルノにおいては、芸術が生からどんどん遊離してしまっており、芸術が自律へと閉じこもっていると見られているが、そのような芸術を必要としない態度ではなく、むしろそこにすがりながら、美的判断を主観的体験の表現に合致させようとすることが必要なのである。


309p
総計29100p