09読書日記15冊目 『シンセミア』阿部和重

シンセミア(上)

シンセミア(上)

シンセミア(下)

シンセミア(下)

朝日文庫版で読んだので、1〜4巻まであった。ただ、壮絶なサーガ・ムービーを三時間くらい見せられたような、しかしその映画は三時間を時間通りに感じさせるというよりも、むしろ、アクションに次ぐアクション、事件に次ぐ事件、スキャンダルに次ぐスキャンダル、スカトロに次ぐスカトロ、という具合で、まったく息つく暇が無い。ほっと一息つけるといえば、中山正巡査が幼女に萌えまくる幻想シーンだけであるのだ。

こいつは、ものすごい。シンセミア(sin-semillas)とは、「催眠性の高いマリファナ」であり同時に「種子なしのマリファナ」を意味するのであるが、実にこの小説にはマリファナが大量に登場する。しかし、それと同時に「白い粉」としてアメリカからもたらされた小麦粉をも暗喩しているのは明らかであり、田宮明が同じく「白い粉」であるところの農薬によって身を破滅することもその一環として機能している。「種子なし」とは、一過性を意味するものであろうけれど、実際のところ事件は繰り返されるし、これからも繰り返されるであろう。それは麻薬の持つ「依存性=繰り返し」にも表れている。

しかし、こういった事件の連続、その連続の中に記述として濃厚に描かれる「ひいき」は存在しない。鼠が死骸を喰らおうとしているところを、猫がその鼠を喰らう。その猫はどこかへ去る。そういった六章のシーンが印象付けているように、どの事件も風に靡くように読者の視界から遠のいていく。カメラの眼は事件からは徹底して距離を置いている。


・・・
のどがいたいので、ここまででおわり。のどいたい。

1150p
総計5811p