09読書日記87冊目 『現代倫理学入門』加藤尚武

現代倫理学入門 (講談社学術文庫)

現代倫理学入門 (講談社学術文庫)

お風呂入りながら読む。風呂はいるときの読書で注意すべき点は、(1)のぼせて意識を失わせないこと(2)読みながら寝て本を水没させないこと。これに尽きます。今回はぎりぎりセーフだた。

生物倫理から環境、福祉国家まで、広く浅くカバーした良書。まさに「入門」。しかも、それぞれが連関しあっており、筆者の文体も軽妙で、時々やけに論理的で分析的だったりする<倫理学>を、面白いものと思わせてくれる。〈倫理学〉が面白いのは、それぞれの生活実践に関わりながら哲学的にも論究でき、しかも自らの価値観をぶつかり合わせることができることだと思う。そこには客観的な真理などはない、と僕はそう思う。それこそ”熱い”点である。


気になったところをいくつか。
・ミルの功利主義とカントの義務論を闘わせながら、功利主義を現実的なものとして軍配を上げている
生命倫理に関して、身体の自己所有権の自明性が疑われる
リベラリズムは「愚行権」を認める
・自由は果たして「(他人に迷惑をかけなければ)何をしてもよい」ということと同義なのか
・近代以前は通時的な決定構造を、近代は共時的な決定構造を持つ。しかし、後者では、環境倫理に対応しづらい
・例えば狂人や極悪人を、「人非人」として扱うこと、つまり、道徳的評価を下す/下される人の間に、価値が「通訳不可能」だと認めることは、下す者/下される者の間のコミュニケーションを失効させる
・科学技術と再帰的なリスクをめぐる問題について、科学を悪だとして科学進歩そのものを停止させようとする議論はおかしい。このことと、自由主義と安全をめぐる問題、ないしは、自由と選択肢をめぐる問題は不可分そう。例えば、包丁を持って料理する自由を、包丁は人間を殺める道具になるからと言う理由で拒絶することはおかしい。自由は一定の倫理観(包丁で人を殺さないなど)の上に成り立つのではないか。もちろんそれは危害原理なのだが、しかし、科学技術の場合その危害原理は直接的な形では現れにくい。「あえて〜しない」ということを社会的な暗黙の規範として、近代は成立してきた。

255p
総計29578p