'10読書日記60冊目 『人はなぜ戦争をするのか』フロイト

人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)

人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)

333p
総計18432p
出ました中山元の新訳。文化論集の第二段。「人はなぜ戦争をするのか」が営業的に良いタイトルなのかどうかは分からんが、ちょっとミスリーディング。後期フロイトにおける「死の欲動」の理論がかなり扱われていて、表題に対する答えは端的に、人間における「死の欲動」の存在をもって回答されるのだが、どうもこの「死の欲動」は文学的すぎてあんまり...という声もあるそうだ。が、僕はこの「死の欲動」結構好きである。
とはいえ、この光文社古典新訳文庫を買ったのは、ジジェクの本を読んでいて「喪とメランコリー」という論文が面白そうだったから。喪が他人の喪失を受け入れることであるのに対し、メランコリーはそれを自身に内在化し、永続させようとする志向のことを言う。「公共性の喪失」について、このことを援用できないものか、考えてみたかったのだ。が、ちょっと今は精神的に余裕がなく、「公共性の喪失」よりも「恋人の喪失」の方が鬼気迫る感じだったこともあり、自分のメランコリー気質に突き刺さってくる論文だった。
本書には精神分析講義が二講収録されており、超自我・自我・エスという有名な三区分もとかれており、これからフロイトを学ぶものにとっては最適の一冊なのではなかろうか。他にも、第一次大戦後の文明論を二編収録しており、これがまた鋭く読ませる論文になっている。
中山元の冗長な解説は、別に大したことが書いてあるわけでもなく(ハイデガーの「不安」概念など、取り立てて書くべきことなのだろうか?)、もっとフロイトの理論全体の位置づけなどを教えて欲しかったりした。が、その点を除けば、非常に読みやすい訳文で感心した。