Vフォー・ヴェンデッタ
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2006/09/08
- メディア: DVD
- クリック: 24回
- この商品を含むブログ (103件) を見る
これは「亡霊」の映画である。Vは二重の意味で亡霊である。一つには、マテリアルな意味で、そうだ。Vは、強制収容所で化学兵器の人体実験から生き延び、独裁政権に復讐(vendetta)を果たそうとする。彼は死の灰から蘇った亡霊にほかならない。また、第二に、Vは理念ideaの亡霊である。理念――それは独裁政権が押し潰した人民peopleの理念、自由の理念の亡霊なのだ。理念は、何度抑圧されようとも、回帰する。理念がいかに無残に破壊されたように見えても、理念のコアな部分、すなわち理念が理念たる所以のものは、滅びない。それは何度でも回帰し、人々を動かすのだ。
ヘーゲルは、世界史は偉大な人物によって動かされてきた、と言った。だが、ヘーゲルをそのように(ラスコーリニコフのように)解釈してはならない。この映画が示すように、理念に「顔」は必要ない。Vは仮面をとろうとしないし、議事堂に集まり暴動を起こそうとする人らもまた仮面を付けて参じている。仮面は、理念そのものである。亡霊、理念の亡霊は、「社会」にとりついて離れない。理念を持った人間が不当な暴力を被ろうとも、理念そのものは生き続けるのだ。それこそが、理性の狡知ではなくてなんだろうか。