'11読書日記39冊目 『愛がなんだ』角田光代

愛がなんだ (角川文庫)

愛がなんだ (角川文庫)

p218
総計12425p
威勢のよいタイトルである。一瞬でも「なんであんな奴を好きになって振り回されてるんだよ、まったくしょーもねえなあ、愛なんて糞食らえだよ」という話を想像した人は、すぐにでも本書を読むべきである。事態は全く逆である。主人公は途方もなく報われそうにない愛に執着する。報われないことは百も承知だが、愛する彼の側にいたいがために彼の片思いの相手と三人で遊んだり、無益に見えることを散々っぱらし続けるのだ。彼と彼が好きな人と一緒にいることは、しかし辛い。それを打開するにはどうすればよいか。もう一人、男を増やせばいいのだ。彼の友達と付き合ってしまえば、四人でこれからさき仲良く遊べるだろう。彼女を突き動かすものは、果たして彼への愛なのか。

私を捉えて離さないものは、たぶん恋ではない。きっと愛でもないのだろう。私の抱えている執着の正体が、いったいなんなのかわからない。けれどそんなことは、もうとっくにどうでもよくなっている。

このような訳のわからない感情、しかももはやそれは原初において確かに愛だと言いえたはずのものですらない。主人公は、同じような境遇の報われない恋をしていた男友達と「同盟」を組んでいた。だが、その男友達は、報われない恋に嫌気が差して、というよりも報われなくても傷つけられても愛することをやめない自分に慄いて、その愛をやめようと決心する。彼は、愛を放棄する。だが、それはいったいなぜなのか。愛し続ける自分に慄いたためか。それもあるだろう。だが、もっと事は単純だ。彼は、より報われる可能性のある愛を求めて、愛を放棄したのである。だが、主人公は、もはや恋でもない愛でもない正体の分からないものに取り憑かれ、そこにしがみつく。彼女は、愛を捨てない、よりましな愛を求めるために。それゆえ、彼女は盛大にこう言い張ることができるのだ。「愛がなんだ!」
さあ、お前はそれだけ強くあれるか? だが、それは強いことなのか?