'12読書日記6冊目 『無限論の教室』野矢茂樹

無限論の教室 (講談社現代新書)

無限論の教室 (講談社現代新書)

235p
総計1816p
たしかMくんだったかが、大学二年くらいのときに論理学を勉強しようと思ってこの本も読んだというようなことを言っていたと思うけれど、僕もそれくらいのときに読みたかった。というのも、僕はその当時(今も引きずってるけれど)本当の自分とは何かということをあてもなく考えていたから(よくあるような世迷言と形容したくなるが、僕は「本当の自分」を探していたんじゃなくて「本当の自分」とはどのようなものかについて考えていたつもりだった・・・から一味違うとまではいわない)。どうして論理学の無限について書かれた本を読んでそのようなことを感じるのかといえば、表面的には例えば第九講の冒頭で「僕」が自己について「メタ」に考える部分があるからだし、もっと深いところでは最終的にこの講義が行き着くゲーデル不完全性定理の考え方は(かなり飛躍を含むことを承知で言えば)「本当の自分」が存在するのかどうかは証明不可能だ、ということになるからだ。僕は野矢さんの他の本を読んでいないから(『哲学・航海日誌』読みたいな)なんとも言えないけれど、筆者の真の問題関心はおそらくそのようなことにあるような気がする。衝撃的な本だ。
とまれ、生徒二人と少々風変わりな先生の三人が繰り広げる問答式の講義の論理展開を必死に追っていくことはかなり楽しい(というほどスピーディな議論ではなくむしろかなりわかり易く丁寧に書かれているのも魅力だ)。まずはカントール対角線論法に度肝を抜かれ、さらにそれが実無限的な前提を持っているということにも驚愕し、最後の最後でゲーデルにたどり着いたときには、一体何が起きたのか困惑しながら、茫漠たる気持ちになる。もちろんその茫漠さは、思考がショート寸前のジリジリと熱を帯びたあとの充溢した気持ちとともにあるものだ。考える事の楽しさを、ほんとうに伝えてくれる、まさに新書の役割を十分に果たす好著中の好著だと思う。正直、すごく感動している。