'12読書日記13冊目 『スティル・ライフ』池澤夏樹

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

212p
総計3580p
池澤夏樹はじめて。表題作『スティル・ライフ』と『ヤー・チャイカ』の二作がおさめられている。瑞々しい自然描写が読ませる。解説で須賀敦子も書いているが、雪の描写(こそ)が心に迫ってくる。

雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。静かに、滑らかに、着実に、世界は上昇を続けていた。ぼくはその世界の真中に置かれた岩に坐っていた。岩が昇り、海の全部が、膨大な量の水のすべてが、波一つ立てずに昇り、それを見るぼくが昇っている。雪はその限りない上昇の指標でしかなかった。