'12読書日記15冊目 『カント哲学の射程 啓蒙・平和・共生』山根雄一郎

カント哲学の射程―啓蒙・平和・共生

カント哲学の射程―啓蒙・平和・共生

231p
総計4016p
筆者はカント哲学における「根源的獲得」の重要性を明らかにする。根源的獲得とは、自然法学において、ある所有が"事実"どこから得られたのかということよりもむしろ、今誰に属しているのかという"権利"を問題にする視座である。カントは、こうした自然法学の用語を用いて1790年『純粋理性の一切の新しい批判は以前になされた批判によって無用とされるはずだ、との発見について』の中で、カテゴリーや時間・空間が生得的に獲得されたものではないということを、『純粋理性批判』よりもいっそう明確に主張する。それまでの講壇哲学において、「生得的獲得」は、人間が生得的なカテゴリーや時空間を持つと主張しつつ、しかし結局のところそうした生得性を神の被造に委ねていた。生得的は何よりも神によって賦与された、ということを意味したのだ。しかし、カントはそうした生得性=ア・プリオリを否定し、根源性=ア・プリオリを新たに導入する。それはカテゴリーや時空間の獲得の始原が遡行不可能であるということ、そして遡行不可能な始原にもかかわらず悟性の統一作用によってカテゴリーと時空間がつねにすでに獲得されていくということ、これらを意図したものであった。
博士論文『<根源的獲得>の哲学――カンと批判哲学への新視角』からの補遺ではあるが、新しい知見に驚かされた。他にも、カントにおけるポーランド・モーメントの剔抉を企てた第四章「「もうひとつの革命」への視線――「人間学」の地平から社会哲学へ」や、永遠平和論においてバーゼル和約の中の秘密条項よりもむしろ和約から帰結するドイツの分裂とポーランド分割に対してカントの注目はあったのだとする第五章「平和の形而上学――『永遠平和のために』の批判哲学的基底』が興味深く、スリリングであった。