'12読書日記21冊目 『ばかもの』絲山秋子

ばかもの (新潮文庫)

ばかもの (新潮文庫)

220p
総計5822p
一気に読み終えた。本当に一気だ。お風呂の中で読み終えた。絲山秋子の文体の速度は、並大抵のものではない。それはリズムが良いなどという生温いものではなく、暴風雨の猛々しさに近い。
年上の女にのめり込んで捨てられるバカな大学生の話は、いつの間にか、しかも急激な速度で、アル中になり自意識と暴力に縛り付けられて身じろぎさえできない窒息寸前の男の話へと変化していく。読んでいれば、いつのまにか知らぬうちに閉塞感に満たされてしまっているのに気づく。一方、男を捨てた女は結婚するが、事故で片腕を失い離婚して、いまは片品の田舎にひっそりと暮らしている。男は、女のところへと今度はゆっくりと慎重に足を運び始める。ここらあたりから、ようやく文体の速度、暴風雨は穏やかな小雨に変わる。小雨の中で二人が愛が強固なものとなりえるか、それは分からないまま、だが傷が癒されようとしてる薄明かりの中で、物語はゆっくりと終わる。
調子が良く小気味いい文体が、いつの間にか吹き荒れる風に木っ端微塵となって、静かに幕を閉じる。小説をコントロールするということ、あるいは物語をかたる技術とは、こうした事を言うのだろう。文体の速度。
差し込まれる孤独は、充足した何物をも求めずに、漂い続ける。

失い続ける。なにもかも失い続ける。得たものなんて何もない。
だけど他人が羨ましいということもないのだ。有名になるとか美人の嫁さんをもらうとか子供が天才とか、そういう人生を過ごしたいとも思わないのだ。
淡々と生きていけたら俺はそれでいいんだが。
ただ、友達が減ってくってことはたまらなく切ない。

群馬の言葉なのだろうか。
「ああ、容易じゃねえなあ」という言葉が、よい。