'13読書日記50冊目 『思考術』大澤真幸

思考術 (河出ブックス)

思考術 (河出ブックス)

278p
大澤先生はどう「思考」しているのか、ということについて書かれている。以前、同期の友達らと「議論の仕方」みたいなものについて話していたときに、大澤先生や市野川先生は逆接あるいは疑問を提示してそれがどのように解かれるのか、ということで論文を書いているという指摘があった。確かに、本書で大澤先生は論文の書き手を探偵小説の「探偵」に見立てている。その比喩によれば、論文の書き手はホームズで、先行研究はホームズの前に捜査にあたっていた(無能な)警官たちである。つまり、警官たちは安易に犯人を特定するが、ホームズはその捜査過程のいちいちに疑問を感じ、その疑問を解いていくことで真犯人を割り出していく。そのように提示されるのが論文となる、というわけだ。もちろん、こうした形の疑問・逆接(矛盾)を解くタイプの議論はうまくいくとスリリングになるのだが、僕の場合、修論をこういう形にしようと書き進めていたとき、指導教官に「批評的すぎる」と言われたのだった。探偵小説の比喩にならっていえば、おそらく僕は独善的な推理を展開する勘違いホームズだったのだろう。それ以来、このような探偵小説タイプの論文を書くことにやや躊躇いがあったのだが、この間、某誌に投稿して仮掲載が決定した論文ではそういうタイプの書き方をしたので、うまくいくこともあるということなのかもしれない。
本書にはこういった議論の進め方にとどまらず、論文を書く前の準備、プラクティカルなアドヴァイスも含まれている。例えば、どのような大きさの論文あるいは本を書くにせよ、「一渡り感」のあるメモを作ることが大事だ、という指摘がある。一渡り感とは、ひと目で見渡せるメモということで、何枚にもメモが膨らみすぎると議論の全体像がわからなくなるということである。さらに、自分の思考を一人で論文化するのではなく、そのアイデアを他人に向けて話すことの有用性にも触れられている。他人に話すことで、自分の思考を説得的なやり方で順序付けて展開することになるというのだ。このように割合具体的で、参考になるアドヴァイスが本書にはふんだんに含まれている。