'13読書日記51冊目 『ハンナ・アレントと現代思想 アレント論集Ⅱ』川崎修
ハンナ・アレントと現代思想 (アレント論集 II) (アレント論集 2)
- 作者: 川崎修
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/03/19
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ハンナ・アレントの政治理論 (アレント論集 I) (アレント論集 1)
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重要な問題は、アレントがハイデガーにたいして、彼の「意志」概念を中心に、批判と同時に(ハイデガーによっては展開されなかった)可能性をも読み取ろうとしているというところである。ナチズムとの関わりからハイデガーを批判するという方向は、フランス現代思想の方面ではいまだになされているし(西谷修『不死のワンダーランド』に詳しい)、日本でも目にすることも多いけれども、そのようなことを踏まえたときに、アレントのハイデガーの意志論への注目は異様である。彼女は確かにハイデガーが「僭主的なもの」を欲する傾向がある哲学者の系譜に属していることを批判してはいる。しかし、アレントがハイデガーに注目するのは彼の意志概念の革新である(彼女の注目は『ニーチェ』に集中している)。アレントによれば「ハイデガー以前の何びとも、いかに、意志の本性が思考と対立するものであり、思考に対して破壊的に作用するものであるかということを見抜いていなかった」。アレントはハイデガーがこれまでの哲学において隠されてきた意志の破壊性を発見したと考える。ニーチェの「力への意志」という洞察は、意志にとってみれば、無とは「意志しない」ということのなかに意志が消え去ってしまうということ、この無力さを意味する。したがって、意志は「意志しないよりは無を意志する」という破壊的な性格を持たざるをえない。この破壊性は、すべての存在者に向かうだろう。こうした意志の破壊的性格に対して、ハイデガーが対置するのは「存在の呼びかけに従う思考」であるとアレントは言う。しかし、存在に呼びかけられて本来的な存在者のあり方に向かうというテーゼにおいてハイデガーは、「行為」を問題にすることはできない。というよりも、むしろ行為そのものが思考、存在の呼びかけに従う思考のなかに包摂されてしまう。このことがアレントのハイデガーの批判の中心である。