'14読書日記6 『近代法の形成』村上淳一

近代法の形成 (岩波全書)

近代法の形成 (岩波全書)

『ドイツ市民法史』の前編にあたる教科書。僕の指導教官が、村上さんの「ドイツ法」の講義を受けていた時にはもう教科書として出版されていたと言っていて、それだけ古い本なのだが、非常に含蓄のある指摘がなされている。僕は、学部時代は京大経済の社会思想史研究室で学んでいたから、いわゆる日本の市民社会論は馴染み深く、またそれを主唱していた人らの多くが研究していたスコットランド啓蒙にも親しみがあるのだが、村上さんの『近代法の形成』と『ドイツ市民法史』という2つの教科書は、そうした近代=自立したブルジョア市民社会、という定式をドイツの視座から相対化してみせる(だれか、このあたりの日本の研究史の対立?を整理してくれたりしないかな。東大法学部系と社会思想系の対立?)。本書で提示されるは、ドイツにおいて近代法の形成過程が絶対主義の貫通にほかならなかったこと、それはすなわち封建的な自然法(近代的自然法ではなく身分制的な部族社会の慣習法、すなわち「古き良き法」)による権力の制約からの解放であったということであり、『ドイツ市民法史』で扱われるのは、ドイツにおけるスコットランド的な枠組みの市民社会はまさに「上から」のものでしかありえず、それは権利の擁護というよりは、国家利益の増大のためにこそ商業の自由が必要であるとするような国家目的論の範疇においてであったということ、これらのことである。
僕としては、『ドイツ市民法史』はやや細かすぎてまとまりがない印象を受けたのだが、本書は対立軸が明白で、読んでいてわくわくさせられる知見にあふれている(とりわけ僕はなぜドイツの中世の意味の分からない伝統的な法慣習の叙述にひかれるのか?)。カントもメインで取り扱われているが、おおむね、解釈も納得できるものになっている。