'14読書日記26冊目 『晩年様式集』大江健三郎
- 作者: 大江健三郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/10/25
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (10件) を見る
もちろんこうしたスタイルは、たんに芸術のための芸術としてあるのではなく、主題のために適切に選ばれたものであるといえる。それは、破局からの再生、死者から生き残った人への懐かしい手紙、とでも抽象的に言うことができるだろう。個人的な困難と大震災を直接リンクさせるのではなく、むしろ文学的・想像的な仕方で、小説の破局と現実の破局のリンクがほのめかされる。私小説のスタイルに則りながら、ポリフォニックな視点を獲得するという方法は、破局にあって個人が、ではなく集団が、共同体がどのようにそれを受け止め、それを生き延びていくかをテーマ化するのに最適なのだ。
語るべきことは多いが、本書の結びに置かれた3.11前に書かれたという大江の詩の一節、「私は生き直すことができない。しかし/私らは生き直すことができる。」――この言葉に、フィクショナルなものと現実的なものを重ねあわせる力を与えるために本書が書かれたと言っても言い過ぎではないだろう。あるいは、ビートニクの詩人のものであるという「求めるなら助けは来る/しかし決して君の知らなかった仕方で」という言葉に肉付けを与えるために。
私は生き直すことができない。しかし私らは生き直すことができる。「私ら」には、生きている私たちのみならず、死んでいった人ら、そして後に生まれてくる人らさえも含まれる――いや、含まれなければならない。