'14読書日記29冊目 『哲学者たちのワンダーランド 様相の十七世紀』上野修

スピノザの世界』(講談社新書)、『デカルトホッブズスピノザ―哲学する十七世紀』(講談社学術文庫)で魅力的に十七世紀の哲学を語ってきた筆者が、今度もまた哲学の本としては破格の面白さを持つ本を出した。扱われるのは同じく十七世紀、デカルトスピノザホッブズライプニッツである。講談社のPR誌『本』に連載されていたものをまとめたもので、語り口は上にあげた二冊より柔らかい。しかし、語られるのは、哲学史をひとわたり知っている門外漢にとっても目からうろこの思考である。副題に「様相」という言葉があるが、それは論理学の用語で、可能/不可能、偶然/必然の四項を表すものだ。途方もない懐疑のすえに、唯一否定することが不可能な現実をコギトに見出さざるを得なかったデカルト、一切のものが必然であり現実でありそれゆえにコギトではなく自然そのもの(神そのもの)が考察しているという結論に至るスピノザ、社会契約・国家の必然性を物体論・人間論からシュミレーションしていくホッブズ、この三人が破壊していった現実の意味、神と自然と人間の関係を修復していくライプニッツ。こうして取りまとめられる十七世紀は、図抜けて恐ろしく奇妙な、そして恐ろしくまともな思考に満ちている。筆者の本を読むと、それらの怪奇なまともさに驚かされ、「現実」を見る目も人知れず変化を被らざるをえなくなる、と言いたくなるほどだ。
スピノザライプニッツ(特にライプニッツ)のところはなかなか軽やかなのだけれど、軽やかであるがゆえに多少の分かりにくさが残ったが、ともかくも読み進める手が止まらない。そういう哲学史の本である。
スピノザの世界―神あるいは自然 (講談社現代新書)

スピノザの世界―神あるいは自然 (講談社現代新書)

デカルト、ホッブズ、スピノザ 哲学する十七世紀 (講談社学術文庫)

デカルト、ホッブズ、スピノザ 哲学する十七世紀 (講談社学術文庫)