読書日記 「デーミアン」 ヘルマン・ヘッセ


デミアン (新潮文庫)

デミアン (新潮文庫)

文学的孤独、自己実現。”青春文学”作家ヘルマンヘッセの作品「デーミアン」には、こんなモチーフを当てはめる事が出来るだろう。


青春文学「車輪の下」は、どんな人でも一度は読んだ事があったり、読んだ事がなくても題名くらいは聞いた事があるだろう。僕も、この本には恐らく中学生の時に出会った記憶がある。


青春の葛藤を描いた不朽の「青春文学」として、日本で人気のある作家ヘッセだが、誰しも、車輪の下以降の作品に目を通さないのだ。思春期の時に車輪の下を読むが最後、もうそのページを繰ることはなくなってしまう。


「デーミアン」も一見青春文学の様相を呈してはいるが、そこには深く示されたヘッセの人生観・人間の意味といった、深く哲学的な題材が(それは非常にユング哲学やニーチェに影響を感じるものだ)、奇を衒わない簡潔でそれでいて心に染む文章でつらつらと書かれている。


「私は、自分の中からひとりでに出てこようとしたものだけを生きてみようと望んだだけだった。なぜそれがこんなにも困難だったのだろうか」


「鳥は卵から抜け出そうと戦う。卵は世界だ。生まれようとする者は一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛んでゆく。神の名はアブラクサスという。」


最後に、自らが「人ということ」を突き詰めて考えていく事を運命付けられた、”印”を額に刻んだ人間である事を悟り、人類の決定的な運命転機を予測し、それが世界大戦であることを知るや否や、「新たに生まれるために荒れ狂い、殺し、滅ぼし、死のうとしている、自己の内面で分裂している魂の放射」を感じ、世界は崩壊しなければならない事を憂う。


「世界は再生しようとしている。死の匂いがする。死なしでは新たなものは生じない。」


192p

総計 3224p