読書日記 「悪童日記」 アゴタ・クリストフ


悪童日記 (Hayakawa Novels)

悪童日記 (Hayakawa Novels)

一人称複数形で書かれる淡白で生硬な西洋寓話。


<戦争>によって、<大きな町>から<小さな町>へと疎開せざるを得なくなった双子の兄弟。「ぼくら」は祖母の家に疎開することになる。双子を取り巻く環境は日々悪化していくばかりであるが、彼らの知性で、そして子供特有の冷酷なる倫理観で、何事も淡々とこなしていく。「火垂るの墓」の様な世界を期待してはいけない。「ぼくら」に会って強かに、物事を冷静に見なくてはいけない。強くならなければいけない。人の弱さを知るたびに、強くならなければいけない。


極限まで「心理描写」や「不確定な書き方」を避け、美文を排除した、まるで戯曲のト書きの様なプロット。戦争、強姦、安楽死、性行為、労働、計画的虐殺、孤独、貧富、飢えといった重苦しいテーマを各章単位で寓話的に問いかける。だが、そこにはあくまで筋書きだけが記されていて、読者はその行間に心を震わされる。結末を知るまでページを繰るスピードは衰えないし、双子の「ぼくら」が心に巣食うてしまったかのような作品である。


深く考えてはいけない。ただそのプロットに従って、空白に浮かび上がる悲哀や祈りに心を麻痺させて眠ればいい。そうしたらもう一度「ぼくら」はそこに現れる。


フランス文学らしくないところもフランス文学らしい「悪童日記

すぐ読めるから、ほんとうに、読んでみてください。「ぼくら」に会って下さい。




244p

総計 3468p


今日の回文:煮汁、痔に

いや、絶対しみるから。