読書日記 「読む力・聴く力」 河合隼雄 他


読む力・聴く力

読む力・聴く力

河合隼雄立花隆、そして谷川俊太郎の講演、シンポジウムを文字に起こした本を読んだ。「〜力」シリーズの一環で、他にも「笑う力」、「学ぶ力」などが岩波から出版されている。


講演を起こしただけあって、非常に読みやすく、三者三様の人柄やエピソード、論理展開も楽しめる。河合隼雄は、温和で自分の意見や他人の意見を長い間咀嚼して物を喋る印象、立花隆は理詰めで、しかもサイエンスワーク的な論理展開や、時代の急進性を論じるまさにジャーナリスト上がりといったところ。そして谷川俊太郎は、やはり感性を信じる、というスタンスが感じられた。


この本では、様々な「読む」「聴く」事の有用性、それはテレビや映画なんかの映像と文字が同居する媒体よりかはより「能動的」な作業が、少なからず人間にはよい影響を与える、と言うものであった。もっと三者の意見を(講演を)聞いていたいと思うほど、一瞬で読めてしまった。


本編の中に、谷川俊太郎の詩がアンソロジーと言う形で載っていたので、やはり、(詩や歌に傾倒している)私としてはこの本の中にあげられていた彼の面白い詩を取り上げないわけにはいくまい。本のテーマ上「読む」という事に焦点を絞って織られている。


「飢えと本」

何百万人もの人間が群がっていて

一冊の本のない場所がある

一人しか人がいなくて

何万冊も本のある場所がある

読み終えたあとで食べ物になるような

本があるべきだとジョンは言ったが

飢えていれば読む前に食べてしまうだろう

私の居たい場所は断崖の上

そこへ一冊だけ本を持ってゆき

声に出して読む

海と空に人間の書いてきた本と言う代物を

読んで聞かせるのだ

(『詩を贈ろうとする事は』集英社


「恋する男」

恋人の皮肉な笑顔が読みきれなくて

彼は恋愛論を読む

開いたページの上の愛は

匂いも手触りもないが

意味ではちきれんばかりだ


彼は本を閉じてため息をつく

それから柔道の稽古に出かける

「相手の動きを読め!」

とコーチの叱声がとぶ


その晩恋人にキスを拒まれ彼は思う

この世は読まなきゃいけないものでいっぱいだ

人の心を読むのに比べれば

本を読むのなんて楽ちんなものだ


だが言葉でないものを読むためにこそ

人は言葉を読むのではなかったか

彼は再び恋愛論にもどる

ため息をつきながら


コンドームを栞代わりにして


(『シャガールと木の葉』集英社


私が一番言いたかったのは上記「恋する男」の第四連「だが言葉でないものを読むためにこそ人は言葉を読むのでなかったか」に集約されます。今午前5:34です。もうすぐ夜が明けます。次の夜までにはまだまだ時間がある。



194p

総計5663p