読書日記 「朗読者」 ベルンハルト・シュリンク


朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

まーたまたドイツ文学。けど、今回は(も)素晴らしかった。今年読んだ本ベスト5には絶対入ります。悲哀のストーリーが最高。涙しますね。ないてないけど。涙じゃねーよー!汗だよー!ばっっきゃろー!


はい。


「あなたは自分の恋人が戦争犯罪人ならどうしますか?」

これがこの本のテーマです。戦後ドイツの黎明期、少年ミヒャエルは自分の母親くらいの年齢の女性ハンナと恋に落ちます。ハンナとの逢瀬を重ねるたびに「坊や、本を読んで頂戴!」と朗読をせがまれるミヒャエル。そんな愛しい日々も、突然ハンナが失踪したことで終わってしまいます。ハンナはナチス収容所で看守として働いていた罪を戦後裁判で裁かれることになったのでした。自分の罪を認め、事実の真相をただそうとするハンナは、それによって自らの罪を浄化し、また、文盲であることを隠そうとしました。ミヒャエルは、ハンナに取り付かれたまま一生を過ごすことになります。彼女が死んだ後も。


これをよんで深く考えさせられるのは、過去をどうとらえるか、ということです。戦後ドイツでは教育の場で戦時ナチスドイツに対する徹底した批判が加えられてきました。そして、その教育を受けた青年達は、戦時中に軍部に関わっていた、また、傍観してきた親世代を批判し、自己を正当化しようとします。ですが、果たして、それで正しいのか。


収容所でガスのスイッチを押したのは、果たして、押さなければ自分が殺されるからなのか、それとも、その行為には何一つの感情も含まれないものだったのでしょうか。戦時中に人を殺した罪を、戦争の名のもとに恩赦できるものなのか。全てを時代の責任に押し付けることなのでしょうか。


ドイツと違い日本は、他国へ行っても偏見を持った目で見られることはありません。ドイツ人は他のヨーロッパの国へ行けば、偏見の目で見られた、というのです。ナチスという史上最大の犯罪を、ドイツだけの問題にしていいのか、それをただ史実として捉えるのではなく、人間の尊厳までゆるがすような根本的問いを内包するこの事件を哲学的に、真摯に考え直す必要があるのではないでしょうか。我々、大学生に与えられた時間を少し、このことに割く価値はあると思います。社会に出てしまえば、おそらく、このような根源的問いを考える事はできなくなるでしょう。また、考えたくなくなってしまうでしょう。答えの出ない問いではありますが、分からないときに分からないまま長い間考え続けることが人間を造っていくのだと思います。


過去の過ちを認め、それを批判し、今生きる現代をどうとらえていけばいいのか。その問いの発端がこの本の中にありました。これは、絶対読まなければならない本です。敗戦国日本人として。

書いてあるテーマは重いですが、文体は読みやすく、優れた翻訳が新潮文庫から出ています。一冊500円の文庫で、これほど考えさせられるなら、買わない人は***です。



今日の回文:姪多い目

丼勘定


258p

総計 6692p