読書日記 「野火」 大岡昇平
- 作者: 大岡昇平
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1954/05/04
- メディア: 文庫
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戦争文学。著者自身がフィリピンで捕虜となったことが下敷きにして書かれている。平凡な中年の男が、戦地で結核に冒され、わずか数本の芋を渡され本隊から除隊させられ、戦地を除兵として転々とする。食糧がなく、絶え間ない被弾の恐怖という極限状態に陥る。その中で自分の血を吸った蛭を食い、果ては友軍の屍体に付いた肉を見て、食欲が湧く。本能が人間を生かす戦地にあって、人間が人間を食べるという蛮行を犯すことのなかった男は、何を見ていたのか。
日本現代文学を切り開いたであろう一作。カフカの影響を濃く伺わせるような、死生観、実存主義文学。様々な比喩表現が豊か。
気になったフレーズを取り出して色々考えてみようのコーナー!
「我々の所謂生命感とは、今行うところを無限に繰り返し得る予感にあるのではなかろうか」
「人は要するに死ぬ理由がないから、生きているに過ぎない」
「出生の偶然と死の偶然の間に挟まれた我々の生活の間に、我々は意志と自称するものによって生起した少数の事件を数え、その結果我々の裡に生じた一貫したものを、正確とかわが生涯とか呼んで自ら慰めている」
男は、本能のうちに「生かされている」事を悟る。それは神と呼ぶべきものであり・・・あとは本を読んでくだされ。
182p
総計7105p