07読書日記5冊目 「手紙」東野圭吾
- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/10/06
- メディア: 文庫
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文学をジャンルわけすることに意味は無いのですが、大江健三郎、三島由紀夫、安部公房、村上春樹、太宰治などを「純文学」と位置づけるなら、司馬遼太郎、池波正太郎、松本清張などは「大衆文学」「通俗小説」と分類されるのではないでしょうか。そして、東野圭吾や宮部みゆきも後者に属すると思います。その線引きを明確にすることは、難しいのかもしれませんが、確かにそこには大きな隔たりがあります。通俗小説はリアリズムに依拠したものが多い、というものが僕の個人的な見解ではありますが、別に、純文学だからどう、通俗小説だからどう、と言うわけではありません。
この「手紙」という小説は、「受刑者」「受刑者の肉親」「周囲の人間」という3タームからの関わり合いを軸に書かれています。主人公の兄が犯した「強盗殺人」という罪を、兄ばかりか、主人公もその大きく救いようの無い渦腕に巻き込まれていってしまいます。主人公が最終的に選んだ道が正しかったのか、主人公がどう生きればよかったのか、という事は分かりません。ただ、その苦渋に満ちた半生がリアリズムに則って切々と描かれていきます。刑務所の兄から送られてくる「手紙」がストーリーテラーの役割を果たす構成になっていて、行間は雄弁です。
ごく通俗的で、安易なテーマ設定になりがちな題材を、持ち前の力量で上手くまとめている佳作です。とは言うものの、やはり、そこには説得力と言うものが欠けているような気もします。オールマイティとして主人公を導く役割を与えられている社長もどこか白々しいし、「イマジン」をモチーフにしている所もどこか違和感を感じてしまいました。あまりに多くの小道具を出しすぎたような気もします。暗澹たる事実を連ねることを恐れ、希望を、あるいはカタルシスを書き出そうとする意図が、嫌でした。しかし、そういうことを差し引いて考えても、この小説が読者に与えるであろう感慨や、社会性に纏わる考察を導き出すであろう点は評価できるものです。読みやすいのが、何より万人受けしそうです。読みやすすぎて、心はつるつるのままですが。
p428
総計1439p