07読書日記36冊目 「ロリータ」ウラジーミル・ナボコフ(若島正:訳)


―ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩目にそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。


ロリコン」という今なら小学生でも知っている小児性愛者を揶揄して(そこに悪意は無いにしろ、ある種の非難の意図を汲み取って)使われる言葉の語源となった小説。ロシア革命以後、亡命生活の後にロシア語を捨てて英語で書き始めた(ナボコフ流に言えば「英語という言語とナボコフとの情事の記録」)、この巨頭的作者は、あらゆる視点を内鏡の中に入れ込んでしまう、「総合小説」を完遂した。


本書は、多くの未読者が思い描くような変態小説(あるいは、谷崎の様な)だけに留まらず、ミステリ的な要素、あるいはアメリカ全土を描写しつくすロード・ノヴェル、そしてロマンティック・ノヴェルといった、ありとあらゆる読みかたを可能にする。


主人公のハンバートを持って饒舌に(ここにはロシア人特有の癖なるものが顕れている気もする!)語られる、非・常人としての自己を苦悩し、ロリータへの愛と、彼女からの愛をただ求めた男の惨めで哀れで、それゆえ妄想過多的な様は、コンテクストとアウトコンテクストの境目をあやふやにする。


ナボコフは、常套的な心理学に重きを置いた文学批評を嫌悪し、それにとらわれない読まれ方、語彙遊び、ジョーク、軽妙洒脱を駆使し、満ち満ちた輝かしいまでの栄華的表現を花咲かせたのだ。


―絶望的なまでに痛ましいのは、私のそばにロリータがいないことではなく、彼女の声がその和音に加わっていないことなのだと。


623p

総計:10797p


追記:最近、ようやく本に線引きしながら読むようになった。すごく、新鮮で、自分の感性がくすぐられて、良い。

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)