07読書日記39冊目 「恥辱」J・M・クッツェー


恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)


NY行きの飛行機で読んだ。


初老の大学教授が、教え子と肉体関係を持ち、それを機に大学を去らざるを得なくなる。そして、一人娘が住む田舎町に転がり込むのだが、そこでも悲劇は待ち受ける。


南アフリカノーベル賞作家J・M・クッツェーによる、悲劇。あくまで華麗に恋愛をし、醜く生きようとしない主人公と、その娘のかたくななまでの「生」へのつき上がるような衝動が、対位法的に流れ、面白い和音を奏でる。悲劇(南アフリカのまだ根強く残る情勢不安)の中から、確かに「悪しきところから、善きものとして生きる」というメッセージを受け取らざるを得ないのだ。


「いよいよ来たわけだ、審判の日が。何の前触れもなく、高らかなファンファーレもなく、それはやって来た、私はその直中にいる。胸の鼓動も激しく、まぬけな心臓も心臓なりにそれと悟っているらしい。われわれはいかにして審判に耐えるのだろうか?」


「この子に?いいえ。どうして愛せる?でも、愛するようになるわ。愛情は育つものよ。その点は、母なる自然を信じていい。きっと良い母親になってみせるわ、デヴィッド。良き母、善き人に。あなたも善き人を目指すべきね」


―善き人か。この暗澹たる時代に、わるくない心構えだ。


348p

総計11560p