07読書日記44冊目 「道徳の系譜」ニーチェ


道徳の系譜 (岩波文庫)

道徳の系譜 (岩波文庫)

ゼミ旅行当日になってようやく読み終えるという暴挙笑


第一論文では、キリスト教が「善と悪」を作り出した過程がを述べられる。いや、キリスト教の場合は、「悪から善」を作り出したのだった。


第二論文では、「良心のやましさ」や「負い目」といった感情がどのように発生したか解説される。本来ならば、人間の自然的意志の力(=残忍性)は、外へと向けられるはずなのに、それが「国家」や「法」によって、内面化されることで「良心の呵責」といった、つまり自己否定の反自然的な感情がわきあがる。そこに上手く付け入ったのが、キリスト教の「原罪」思想であり、神が人間の代わりに罰せられるという「新約聖書」の奇跡であった。


第三論文では、禁欲主義者の理想が、いかに猛威を振るってきたかが明らかにされる。「欲しないよりは、無を欲する」人間の空隙を埋め尽くしたのは、「なぜ人間存在は実現しているのか」という内的な問いに答えるための意義を一時的に(暫定的に)与えるにすぎなかった、禁欲主義思想だったのだ。


後半の、溢れ出てくるような言葉の洪水に流されていくうちに、一気に読めてしまうが、実際ここに書かれたことの半分も理解してるかって言うと危うい。ただ、ものすごく気持ちよく読めるし、光明が差すような感覚にも襲われるのだ。それは、混沌として見る者をも覗き込むような深い深い深淵から、微かに、だがはっきりと湧き出てくる希望ではあるのだが。


けど、正味岩波文庫の訳は古すぎるし、整合性が合わなくて、英語版をいちいちチェックせんなあかんのがめんどくさかった。はやく、新しい気概に満ちた研究者によって新訳が出されることを願う。


216p

総計12855p