07読書日記46冊目 「民族はなぜ殺しあうのか」マイケル・イグナティエフ
ゼミの先生お勧めの本。
- 作者: マイケルイグナティエフ,Michael Ignatieff,幸田敦子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1996/03
- メディア: 単行本
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今はカナダで政治家をしているマイケル・イグナティエフの著書。彼がBBCのレポーターをやっていた時に出版されました。もともとは大学でスコットランド啓蒙を研究していたのが、アカデミズムの偏狭さに嫌気が差し、マスメディアで民族紛争などの取材を通じ世界を見つめてきた彼です。
もちろんその思想の源流にはスコットランド啓蒙、つまりシビック・ヒューマニズム、スミスの道徳観、国家観が脈々と流れています。それはnationを中心に、人々は生きざるを得ないということでもあります。市民ナショナリズムを到達点として世界は発展すべきであるのに、世界の多くを席巻しているのは民族ナショナリズムです。法の力、国家観を支持しあう市民(nation)を統合統治するnationではなく、まさにコソボ、ケベック、ドイツ、ウクライナなどで起こりつつあるのは、一民族(a nation)による独裁的な政治体制です。
しかし、イグナティエフは取材を進めるにしたがって、次第に悲観的にならざるを得ません。我々の暴力を全て奪い取ってしまっているものこそ国家であり、国家なきところには暴力の欲求に突き動かされて、それの言い訳としてナショナリズムに陥る民族が数多といるからです。我々、近代市民だと自称する人々がこの「暴力」の概念を忘失することは、民族紛争を続ける者たち、nationを、homeを欲して普段の血の闘いを続ける者たちを理解したことにはならないのだと、彼は断じます。
混沌とした世界に、救いを求めることができるのはnationでしかなく、しかもそのnationは一民族、一言語だけを統治する存在であっては無く、多民族、多言語を内包する存在であれ、その希求もかき消されようと、暴力の波に飲み込まれようとしてはいるのですが。
京大の人は法学部図書館にだけ置いてるみたい。一読の価値あり。
363p
総計13433p