07読書日記47冊目 「ユートピア」トマス・モア


ユートピア (岩波文庫 赤202-1)

ユートピア (岩波文庫 赤202-1)


共産思想の原初となりうるcommon wealth「ユートピア」を創造したモア、渾身の著書。


14世紀、ルネッサンスと宗教革命の間、ヨーロッパが国家間の対立を一層激しくさせていた時代というコンテクストを考えると、ものすごい辛辣で斬新な、意義のある一打であったろう。


イギリスのencloser、法の峻厳性に対する批判が舌鋒鋭く語られている。さらには貨幣が引き起こす諸悪についても述べており、この辺りがマルクス主義と結びつく、というのは定説となっているのかもしれない。また、その一方で人間生活に対するモアの思想は、極めてヒューマニズムに溢れている。それはエラスムス受け売りのヒューマニズムであったろうが、よくあるような全ての人間は平等であり、自然から導き出される欲求を生きる糧とすべきだ、といったようなそれこそ机上の空論の話だけではなく、モアが、かくなる理想と、それだけでは済ますことのできない現実との葛藤を抱えていたであろうことを推測させる記述が随所に見られるのである。


さらに、モアはユートピア国には二種類の正義があると書いている。一つは「人民という下層階級」に存在する、服従を旨とし、反抗する力が萎えさせられている者にふさわしい正義である。他方は「君主の正義」であり、「自分のしたいことは何をしても決して不法にならないといった自由」をもちうるものの正義であるのだ。


この議論は、まさしくニーチェの言う貴族道徳と畜群道徳に他ならないではないか。ニーチェ自身が「ユートピア」を読んでいるかどうか定かではないが(読んだ可能性は高い!)、ユートピア国の中での人民の平等性を疑い尽くしたのはまさしくニーチェであり、モアの葛藤からキリスト教の中へ深淵を延ばしていったとしても不思議ではないのではないか?


210p

総計13643p