07読書日記50冊目 「白痴」坂口安吾


白痴 (新潮文庫)

白痴 (新潮文庫)


もはやその名をほとんどの若者からは忘れられたであろう、坂口安吾。このリンクでは講談社文芸文庫だが、実際は新潮文庫版「白痴」を読んだ。


教科書にも載らない「堕落論」的発想ゆえに、忘れ去られようとしているのは、本当に残念である。時代的には太宰らと同じに当たるのだろうか。太宰もあんまり読んだことないけど、それに近い雰囲気、それをなおも観念的思想的吐露にとんだ作品、だと思えるのではないか。


僕は表題よりも「青鬼の褌を洗う女」が好きだ。彼のセンティメンタリズムが溢れ出ている。


あぁ、この人はどうしてこんなにひねくれ者なのだろうか。「堕落論」を標榜して、デカダンに陥ることを希求しながら、その反面、生の美しさを求めてやまなかったのはこの人自身なのだ。いくら身体と精神の、身体の快楽に身を置こうとする主人公を描いていても、僕には分かる。

この人は本物のヒューマニストだったに違いない。いや、ヒューマニストなんていう堕した言葉でカテゴライズしてはいけない。”私小説的なるもの”を嫌悪して、自らの生の希求との葛藤に打ち悩んだ人なのだ。葛藤には文学性がある。


この短編集で、それぞれに色が違う。モチーフが同じでも色が違う。プリズムが違う。


―私は然しある年齢の本能によって限りなく若さを懐かしむ。慈しむ。若さは幸福でなければならないと思う。若者は死んではならぬ。ただ若さというものに対してすでにそのような本能を持つ私が、私の最愛の若い娘に対して、どのような祈りをもっているか、その人の幸福のために私自身の幸福を切り離して考えることが微塵も不自然でないか・・・ (「青鬼の褌を洗う女」)


253p

総計14309p