07読書日記53冊目 「女の一生」モーパッサン


女の一生 (新潮文庫)

女の一生 (新潮文庫)


本当は新潮文庫のを読んだんですが。


所謂自然主義文学の最高峰といわれるモーパッサン女の一生」。


自然主義文学の本質とはリアリズムの追求にあるとされており(ロマン派の反動で勃興した)、この作品には、過激なまでの悲観的現実がまさしく叙述されています。


女の主人公ジャンヌが辿る、悲劇的な人生は、読むものの想像力に痛く染み渡ります。このリアリズムを追求したペシミスティックな現実描写に対する救いは、生命の強い躍動であり、過去の愛らしい思い出であり、死を迎えてあの世へ行った数々の人々、ジャンヌを通過してその心にだけ留まっている彼らへの愛惜の念です。


現実は耐え難いほど辛いけれども、生の喜びは、素晴らしい自然は、一時的にながらもジャンヌの心を慰めます。なんと悲運な人生だったんだろうと述懐するジャンヌに、女中のロザリが最後にこう問いかけます。

「世の中って、ねえ、人が思うほどいいものでも悪いものでもありませんね。」


滔々と流れていく万物の営みの中で、かくも悲惨な、かくも残酷な、と思われるようなことであっても、人間は立ち直れる強さを持っているように思われるのです。明日は光が差し、過去はいつまでも心の慰めものになる。生命のぬくもりは心に希望を息吹かせる。ペシミスティックなストーリーのなかにあって、ナラティブの声が一切を見つめる主の様な優しさを喚起させるのです。


僕にしたら、同じフランス人作家で、モーパッサンよりも評価が高いであろうジッドの「狭き門」よりは、この「女の一生」の方に、肩入れをしたい。キリスト教の絶対精神とその背徳と言う哲学的主題を持つがゆえに前者は評価されているのでしょうが、むしろ日本人としては女の一生のジャンヌに心情的には身を寄せるのです。


397p

総計15211p