07読書日記75冊目 「異邦人」カミュ


異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)


今まで読んできた本のなかで、再読した回数が最も多いのは、「異邦人」だ。部分部分を再読している回数では村上春樹が群を抜くのだろうが、読み通しているのはこの作品が一番多い。


最初は小学生の時に読んで、何も理解できず(ママンが死んだのは分かった)、次に読書感想文を書くために中学生のときに読んで、最後のシーン、星の光で眼を覚まし、死を前に幸福で満ち足りた気持ちになる安穏な雰囲気を理解した。


三回目。

風呂の中で読むカミュ。すごい。不条理小説、などと言われるけれども、僕にはムルソーの態度が痛く分かる気がした。極めて道理にかなっている。そう思った。


これはさすがに中二には理解できまい。


抜け道の無い社会、メカニックな社会、つまるところ型にはまってところてんの様に押し出されていくしかない社会。そこでは、人は”不条理”な風に自らを偽り、愛とか神とかに自らを委ね渡すのだ。ムルソーの最後の激情、そこでは我々の先にまだまだ道長く延びる日々に、そっと差し込む”暗い息吹き”について語られる。”暗い息吹き”−死−、その前では我々はある意味で特権的であるのだ。誰も彼も特権的に、死を享受する。誰しもが、ああしなかったならば起こっていたであろう世界を想像し、自らの罪を贖うことを祈り、それによって今しも自分が生きている世界を放棄するのだ。


結局のところ、抜け道はない。万分の一も隙間なく作られた社会のなかで、自らの世界を保持し続けることは、つまり自らの内面に、体躯的な欲求や内奥の感情に素直であることは許されないのだ。同じように偽られた世界で、ただ死を前にしてのみ人はそこから旅立てる自由を持つ。


語りつくすことはできない多くを内包した、「異邦人」の前で、僕は何度も跪く。怒号の様なムルソーの、彼の初めての激情の声が鼓膜の奥で響くのを感じる。僕はまだそれに答えることはできない。ただ項垂れて、それでもやはり、暗い息吹きの忍び込むうちで、ムルソーに同情を寄せたりもする。それは彼にとってとくに意味の無いことなのだろうけれど。


−あの大きな憤怒が、私の罪を洗い清め、希望を全て空にしてしまったかのように、このしるしと星々とに満ちた夜を前にして、私ははじめて、世界の優しい無関心に、心をひらいた。


146p

総計20857p