08読書日記9冊目 「黒い裾」幸田文


黒い裾 (講談社文芸文庫)

黒い裾 (講談社文芸文庫)


読書会のために読んだ本。読書会が良いのは、自分では進んで読まない作家を知ることが出来るところ。


幸田文、もちろん露伴先生の娘であるが、私小説的で、実際の文女史のイメージに寄り添って読み進めていくと彼女の造りだす虚実の入り混じった不思議な虚構空間に連れて行かれる。その点で大江に似ているとも言えなくもない。


それにしても、女と女の心の闘いを書かせたらうまいものである。また、些細な生活を描かせても、上質の描写、色使いの鮮やかさなど、日常の機微が際立つ。


女性作家は、どうしてこうも日常を描かせると上手いのだろう。男はざっくりとしすぎているのかもしれない。


『蟹の山のすぐ横に長方形の水槽が置いてある。車えびがついっと細く体を伸すのが見えた。しめた、生えびがあるなら今夜はこれで十分にいい膳立てになる。掻き分けて前に出ると、いかにもいいぐるまだ。底のほうから、つん、つんと突きあがるように浮いて来て、又つんつんと沈んで行く。生ものだけに値も張って買い手がなかった。これなら天ぷらより焼くより、そう、酢で行くのがいい。おろして、背わたを取って、薄塩をする。たっぷり湯を沸かして、用意はそれだけでいいのだ。ぐらぐらする中へすうっとくぐらせると、まっ白なみにまっ赤な縞が染めあがって。ふうふういう熱いうちを柚子の酢だ、ああうまい。たべないさきからうまさは知れていた。』


なんともおいしそうではないか!!


220p

総計2424p