08読書日記35冊目 「蒼氓」石川達三

蒼氓 (新潮文庫)

蒼氓 (新潮文庫)

ブラジル移民者の話。

移民の話、というと山崎豊子の「二つの祖国」を思い出しもするが、これは1930年の話で、「二つの祖国」の一世代前の話。

知識階級ではない農民らが、群像的に描かれており、主人公を持たない小説である。社会的正義も悪もないかわりに、いろんな人の感情がモザイク的にごったまぜであり、それらを読み進めていくほどに、最初は移民者の鬱屈した閉塞感に辛い気持ちを共有しつつもあったが、最後、ブラジルにいよいよ到着し、その広大に広がる肥沃な大地を目の前に、何とか「食うだけは食える」というような僅かで朴訥だが、希望すら覚えずにはいられないのである。何か、この一言で全てを切り裂く殺傷能力は無いが、detailの積み重ねで最後には、供にブラジルに降り立って、粗野な、原始的な生き様を思い描かざるをえず、そして「日本」との別れ、朋友との別れとともにやってくる、新生活への希望と不安を、共有する。第一回芥川賞受賞。

254p
総計8992p