08読書日記36冊目 「知と愛」ヘッセ

知と愛 (新潮文庫)

知と愛 (新潮文庫)

知は思索である。愛は感情である。二つはお互いを求め合っており、しかし、それは決して同一であることはない。お互いは差異を見出してのみ、成立するものである。

このヘッセの円熟の著作は、僕の心を幾度も奮わせた。愛は放蕩であり、欲情であり、不摂生であり、非禁欲である。心の発露を、言葉ではなく、満たすことが愛であり、それは快楽である。人々は快楽の表情をも持つが、また苦痛の表情も持つ。苦痛は死を連想させる。しかし、快楽の表情と苦悶のそれとに、大した差はあるだろうか。愛に生きるものは、生をゆくものである。苦痛が快楽と近しいものであるならば、生は死と近しいものであろう。愛を持たずに、生を生きることができるだろうか。そして、死をゆくことができるだろうか。芸術だけがその両者を架けるものであるようにおもわれるが、結局のところ愛は語ることができない。そして、形として表現された愛も、永遠である事はない。永遠の愛は言葉を否定する、形を否定する。形としての身体を持って生きる生を否定し、生に続く死を導く。そうであるならば、永遠の愛を知らぬ人はいかに生を生きよう。そしていかに死ぬと言うのだろう。

393p
総計9385p