08読書日記37冊目 「愛人(ラマン)」マルグリット・デュラス

愛人 ラマン (河出文庫)

愛人 ラマン (河出文庫)

フランスの女流作家の、本国での大ベストセラー。このような難解な現代文学の技法満載の小説が売れるところが、やはりヨーロッパの文化的成熟性が伺え知れる。

文体は、特殊構文や倒置、体言止、果てしなく続く長文、一人称と三人称の混沌、繰り返される印象など、現代文学の技法を用いて、亜熱帯の夜に見る、苦しくもそれに縋りつかざるをえない夢のような小説を語りだしている。彼女の作者としての態度は、次のように語られる。

『私の人生の物語などというものは存在しない。そんなものは存在しない。物語をつくりあげるための中心などけっしてないのだ。……ときにはわたしは、こうだと思う。書くということが、全てを混ぜ合わせ、区別することなどやめて空なるものへと向かうことではなくなったら、そのときには書くとは何ものでもない、と。』

しかし、このように前衛的な手法を用いながら、読者に与える感慨は並みではない。主人公が担うことになった不可思議な愛の形―閉塞する家庭から自らを逃れさせる契機としての義務感からの性交―が、「愛していない」はずだった男との別れを、船上で振り返ったときに、大海原に自分には見えなかったその愛が吸い込まれて消えていく瞬間になってようやく、見出される、という寂寞は、計り知れない。

221p
総計9606p