08読書日記52冊 「サンクチュアリ」フォークナー (訳:加島祥造)

サンクチュアリ (新潮文庫)

サンクチュアリ (新潮文庫)

どうにも、救いの無いように思えて、明らかに読後感として「喪失感」を得るしかない。

しかし、視点人物を転々と変えながら、複雑な語りを構築していく手法、そして自然をその象徴的存在として表現する作法は、読み手に衝撃を与える。私が読みながら得た喪失感は、その人物の「虚構性」にあるだろう。彼らは悲惨すぎる生を歩んではいるが、常にリアル(現実)を生きているのではなく、リアリティ(現実性)を生きているのだ。integrityを失わずに生きる人間は、一度躓いたとして、それでもまだそのintegrityを支えに生き続けるだろう。

『ぼくらはみんな孤立しているからだ――彼の頭に浮かぶのは眠りの長い廊下を吹き過ぎてゆく柔らかな暗い風、絶えまなく雨の響く低い安穏な棺の下に寝ている自分――悪、不正、涙から逃れた自分。・・・・・・たぶんこういう状況のときに、人は、この世が悪でできていると認めるわけなんだ、結局人間は死ぬものだと認めるんだ――頭の中では、かつて見たことのある死んだ子供の瞳を思い出し、またほかの死人たちを考えた――そこでは憤怒も冷えてゆき、激しい絶望の表情も薄れてゆき。あとには二個のうつろな眼球が残って、そのなかでは極小の姿となった世界が深いところでじっと漂っているばかりなのだ。』

426p
総計14033p