08読書日記55冊目 「方舟さくら丸」安部公房

方舟さくら丸 (新潮文庫)

方舟さくら丸 (新潮文庫)

この物語においては<終わり>は見いだされない。

核戦争は何の前触れもなく、つまり偶有的ではなく必然的な選択として、人類に圧倒的な終末を与えるが、結局核戦争は訪れない。方舟の中の騒乱についても、<終わり>は来ないまま、<ぼく>だけが外の世界に生き延びてしまう。「さくら丸」とは明らかに日本のことを揶揄している。老人が血眼になって女子高生のスカートの中身を追い求めるのも、当然アイロニーである。

核戦争とは、第三者の審級になりうるだろうか。つまり、核戦争とは誰についても平等に<終わり>なのである。核戦争に備えて核シェルターで生涯をおくったとして、それが本当に来る<終結>なのかどうかは、つまり現実化される先取りされる未来であるかどうかは、わからないのだ。このことは<最後の審判>の概念と似ていはしないか。

小説としては、推進する力を持っていて、読者をひきつけるが、最終的なカタストロフにもいたらず、問題は解決せず、<終わり>というよりむしろ<始まり>が強調される作品である。感想としては、それなりではあったが、深い感銘や感動ということではない。

379p
総計14800p