08読書日記70冊目 「性的人間」大江健三郎

性的人間 (新潮文庫)

性的人間 (新潮文庫)

オーケン初期の中篇集。「性的人間」における、「厳粛な綱渡り」を目指す痴漢者たちの相克が素晴らしい。

彼は実存小説家であり、それゆえに青春小説家でもあった。そして、それがゆえに(順接の多用!)いまの読み手としての、大学生としての俺を励まし慰め、落ち込ませるのである。

俺も”厳粛な綱渡り”――つまり、それは一個の実存を賭して何かを成し遂げるという孤独な作業なのであるが――を、心の底から渇望し、あわよくば、反社会的反道徳的なテロリズムにも憧れたりする!(しかし、その憧れの後にすぐ”理性的”な自分に立ち返り、そのような無防備な希望は、”少年”期の思い込みにすぎないのだと反省し、落ち込むのである)

――痴漢たち、この東京に数万人をかぞえながら、きわめて孤独でしかない、心貧しくむなしく危険な熱情にみちた日常生活の闘牛士、厳粛きわまる綱渡り師たち・・・・・・

236p
総計19202p