08読書日記72冊目 「木犀の日」古井由吉

木犀の日 (講談社文芸文庫)

木犀の日 (講談社文芸文庫)

なんというんでしょうか。まったく僕はこの作家の評価に困ってしまう。

私小説でありそうで、そうではないし、なんというか、純文学のきわみ。読んでたらたまらなく眠くなるし。かといって退屈なわけではなく、心理的な揺れは興味深いし。主語が精確に語られるわけではなく、接続語も省かれているので、モノクロームの中でカメラをずっと回しているような不思議な感覚。

――何事か、陰惨なことが為されつつある。人を震わすことが起りつつある。あるいは、すでに為された、すでに起った。過去が未来へ押し出そうとする。そして何事もない、何事のあった覚えもない。ただ現在が逼迫する。(『眉雨』)

284p
総計19728p