08読書日記73冊目 「危険社会」ウルリヒ・ベック

危険社会―新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス)

危険社会―新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス)

現代社会学において、中心的分野となりつつある「リスク社会学」の先駆けとなった本。

「リスク」とは何か。それは、産業化の過程で露出してゆく「不確実性」を伴った「危険」のことである。順を追って説明すれば、(近代化のうちにおける)産業化とは、自然という脅威に対して人間の優位を示すために、すなわち、自然という危険に対処するために、社会が機械化・科学化・分化・専門化することである。そしてリスク社会とは、そのような自然の危険に対処するための産業化が生み出した<危険>に対処していかざるを得ない社会のことである。例えば、環境問題などはその典型で、自然を征服するための産業化が、巡り巡って、人間社会に対しての自然の<危険>を増大させている、と言える。環境経済学の教科書と本書を併読していたので、非情に説得力のある議論が得られた。

本書における白眉は科学と社会の関わり方である。リスク社会においては、近代化は「自己内省的近代化」という側面を取っている。すなわち、その社会内部で起ったリスクに対処するための方策を打ち出さざるを得ないような近代化、である。ベックがそのようなリスクに対処するには、end-of-pipe-technologyではなくて、クリーナー・プロダクション(これも少しニュアンスが違うが)のような、科学の進歩が引き起こすであろうリスクに対して、事後処理的にではなくて事前的に自己批判を行いうる制度設計が必要だと説く。すなわち、大衆が、専門家のような議論はできないとしても、進歩と言う前近代的一神教の信者とならずに、その進歩の先行きの不確実性に抗うように、知識を持って、自己批判的に科学に対して追及を深めていかなければいけない、のである。

全くの大著であり、充分な具体例があり読み進めやすいものではあるが、議論の粗筋は入り組んでおり、簡潔であるとは言いがたく、上述したような議論は本書の一部を占めるに過ぎない(だいぶ抽象したつもりではあるが)。

危険社会、危険の分配、不確実性、ブーメラン効果、世界社会、科学の合理性、許容値、標準値、平準化、脱標準化、自己内省的近代化、科学哲学、誤謬可能性、定説の不可能性、原因排除、対処療法、専門化、非政治、サブ政治、進歩、進歩のコンセンサスの終焉、政治の分化、以上がキーワードとなりうるであろう。

472p
総計20200p