08読書日記79冊目 「仁義なき戦場」マイケル・イグナティエフ
- 作者: マイケルイグナティエフ,Michael Ignatieff,真野明裕
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 1999/10
- メディア: 単行本
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ナショナリズム、とは全くの擬制(fiction)であり、ナショナリズムを持って自らのアイデンティティとする、つまり積極的に「国」や「民族」というものによって自らを表現する、ということの危険性を説いている。しかし、イグナティエフが理想主義的な左翼にとどまらないのは、スコットランド啓蒙の伝統である共和主義のニュアンスを湛えているからに他ならない。民族紛争とは、まず国家の崩壊があり、ついでホッブズ流の自己保存の闘争の恐怖が芽生え、それによって民族主義的被害妄想が現れてくることで生じるのだと考えているのだ。このことはつまり、国家が平和秩序についての決定的な役割を果たす、ということを含意している。
民族主義的ナショナリズムとは、フロイトによれば一種のナルシシズムであるという。中立的に見て微細な差異が、二つの民族集団にとっては重大な<差異>となり、その<差異>を確認したまなざしは再び自己内部に反射され、外部に対しても内部に対してもその<差異>を排除しようとする契機として立ち現れる。グローバリズムは表層的に民族的差異を洗い流すような画一的均質的な消費様式を強要する。古い地域的な大文字の差異を消滅させるようなグローバリゼーションは、しかし一方で、ぎりぎりの微妙な<差異>にしがみ付くことになる。このようなナショナリズムの陥穽に落ち込まないためには、われわれは自らのアイデンティティを正当に評価することから始めるしかない。自らのアイデンティティを積極的に記述する――私は〜〜である――ことをやめ、そのアイデンティティが他者との差異に本質的に依存していることを認めねばならない。そして偶有性を認めることである。ポスト・モダニズムにおいて、グローバリゼーションによる画一均質的な社会は表層的に創られたが、その一方で微細な<差異>にこだわるナショナリズム、ナルシシズムを招いた。この状況を乗り切るには、人間の類的同一性というフィクションが、気休めとしても必要の様に思われる。
本書には、これ以外にも「愛想尽かし」の誘惑に打ち勝たねばならないこと、民族や歴史を超越していく「目ざめ」について説いている。
イグナティエフが日本の左翼に見られるような、全くの理想論に終始しないところは、彼が様々な紛争を取材経験してきたからに他ならない。
(訳については、それなりだが、「アマーチャ・セン」はやめて欲しい笑)
238p
総計22347p