08読書日記81冊目 「かもめ・ワーニャ伯父さん」チェーホフ

かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫)

かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫)

チェーホフは最近もっとも尊敬している作家のうちの一人である。

チェーホフの作品では、どの人物も、なんらかの「憂鬱」にとらえられている、と言うことがいわれる。その「憂鬱」の分だけヒューモラスになり、そしてそのヒューモアの分だけ悲劇的になる。

「かもめ」においては、トレープレフは自らの芸術の新形式、美しきものを抽象的観念的なままに捉えようとする野心によって、しかしそれは失敗するがために、憂鬱している。一方ニーナは失恋し、舞台女優として認められずにいるが、それでもまさに「かもめ」のように自由に飛びまわり、自らの運命をはたと定めて生きていくことを決心する強さを持っている。トレープレフは形而上的な美、それはイデア界において永遠不変の一瞬であるようなものだが、それを捉えようとし、それに失敗する。さらには、ニーナにさえも変わらぬ愛を捧ぐことを思っていたが、ニーナがあまりに一人で運命を背負っていく決意を硬くしているのに絶望し、自殺することになる。ニーナは「忍耐」をもって運命を耐え忍ぶ決意をしたのであった。

「ワーニャ伯父さん」においてもそうだが、チェーホフ劇にあっては、男はキッチュであるか、あるいは常に憂鬱し絶望している。彼らにかけているのは「忍耐」である。受苦の我慢である。それに反して、女性は、ニーナにしろ、ソーニャにしろ、「仕方がないわ」!と言う風に運命の艱難辛苦を持ちこたえて、そこから生き延びていく決心を、力強くもなすのである。そして、読者は彼女らの圧倒的な決意に励まされるのだ。



―でも、仕方がないわ、生きていかなければ!


251p
総計22814p