08読書日記86冊目 「市場・知識・自由」ハイエク

市場・知識・自由―自由主義の経済思想

市場・知識・自由―自由主義の経済思想

ゼミ合宿でハイエクのNew Studiesの一章を読むので、ついでに。ハイエクについてはここ最近までよく知らずにいて渡辺昇一なんかがプッシュしてて保守主義者っぽい印象を持っていたので、あまり読む気にはなれなかったが、どうやら保守主義者というよりもむしろ、反恣意的権力主義者という感じである。

彼の思想を端的に述べるならば、大文字の理性による設計主義を批判し、自生的秩序による「自由」な社会を志向する、ということになろう。彼いわく、法とは自由の条件であり、法によって個々人の利害の衝突が解消されていき、各人が自分の届く範囲の知識や能力を満足に活用できる社会こそが自由な社会である。合理主義者は神人同性のように、つまり万能の神の如く人間の理性を扱ってそれを「大文字の理性」として絶対視し、フランス革命のようにすべての秩序をいったん放棄し、目的から手段にいたるまでのすべてを理性によって統率するような社会を目指す。しかし、そのような上からの、あるいは行き過ぎれば(そしてしばしば行き過ぎる)恣意的権力の暴走を伴いがちな、社会の設計(construct)を行うことを否定する、というのがハイエクの考えたことであった。本書の解説にも書かれているように、彼が望んだ「自由な」社会においては、本当に住人が自由であるのかどうか、簡単に頷けない。というのも、端的な例では、恣意的権力の設定したものではなく、多くの人が自主的に税率80%を選択したとして、それは彼の言う合理的ではなく進化論的適者生存の社会改良であったとしても、その社会が本質的に自由であるかどうかは疑わしい。

とはいうものの、ハイエクはそのような一見自由主義と折り合いのいい民主主義についても懐疑的であり、つまりはものすごく微妙なバランスをとりつつ「自由」という概念を保っているのではある。

290p
総計25112p