08読書日記87冊目 「ドイツ・イデオロギー」マルクス・エンゲルス

ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)

ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)

資本論で理論的体系を作り上げたマルクスが若かりし頃(27、ってすげー)に、ヘーゲル左派へ向けて打ち出した唯物史観の定説的著作。

風邪気味であんまり考えられないけど、共産主義革命を声高に叫ぶ以前の、唯物史観分析はやっぱりおもしろいし、この時代にあえてイデオロギカルな著作を読むことに意味があるのではないか。

しんどい。けど、知恵熱みたいなもんか。

315p
総計25427p<<追記 2010.6.15>>

Karl Marx, Fridrich Engels, Die Deutsche Ideologie 1845-1846
マルクス・エンゲルスドイツ・イデオロギー廣松渉編訳、岩波書店、2002

序文
・青年ヘーゲル派への批判:重力の思想に取り付かれている溺死者

かつてある健気な男がいて、人が水に溺れるのは人が重力の思想にとりつかれているせいだと思い込んだ。この表象を、例えば、それは迷信的な表象だ、宗教的な表象だと言明するといったやり方で人の頭から叩き出せば、あらゆる水難は免れるのだそうな。〔…〕この健気な男こそ、近時のドイツの革命的哲学者たちの典型であった。p15

序論
イデオロギー

ほとんどすべてのイデオロギーは人間の歴史の歪んだ把握か、あるいは人間の歴史からの全くの抽象か、どちらかに帰着する p24

人間の歴史:生活手段の生産=生活様式⇒諸個人間の交通:生産関係⇒社会的編成・国家
物質的生活の生産様式⇒表象や意識:「意識とは意識された存在以外の何ものでもありえない。」p30
青年ヘーゲル派:思想から人間存在へ ……マルクスによる転倒


本論1
フォイエルバッハ批判:感性的世界が社会状態・歴史的産物だということを看過している
・歴史的行為:(1)物質的生活の生産(2)欲求の充足がさらなる欲求を生む(3)社会的関係の創出 ⇒生の再生産:自然的関係・社会的関係(協同-分業)
・意識・言語……他の人間たちとの交通に対する欲求と必要
 意識=他者(・自然)との関係において、現れる
・分業の発生……物質的/精神的労働の分割……意識の自立/疎外……イデオロギー
⇒現実と思想の矛盾……現存の社会的諸関係が現存の生産力と矛盾している
・分業と私的所有は同じことの表現……他人の労働力の支配(所有)=活動の生産物の支配(所有)
・分業の発展……個々人の特殊な利害と社会の共同的利害の矛盾……人間自身の行為が自分自身のものとしてではなく、人間自身にとって疎遠・対抗的な威力となって、それに屈服しなければならなくなる

⇒特殊的利害と共同的利害の矛盾から、共同的利害は国家として形成され、現実の個別/全体利害の葛藤から切り離されて、自立した姿をとる。しかし、これは、つねに実在的な下部構造を伴ってのことである。そこでは、支配階級が他の全階級を支配している。
⇒国家内部のさまざまな政治的闘争は、その階級間の現実的な闘争の幻想的な諸形態。

・普遍的なものというのは共同体的なものの幻想的形態なのだ。p69
自分たちの利害を普遍的なものとして示す

・社会的分業……物象化……市民社会

社会的威力、すなわち幾重にも倍化された生産力――それはさまざまな諸個人の分業の内に条件づけられた協働によって生じる――は、協働そのものが自由意志的でなく自然発生的であるために、当の諸個人には、彼ら自身の連合した力としてではなく、疎遠な、彼らの外部に依存する強制力として現われる。p69

まさしく諸個人がもっぱら彼らの特殊的な――彼らにとってさえ自分たちの共同的利害とは一致しない利害を、追求するからこそ、――そのものは彼らにとって「疎遠な」、彼らから「独立な」ものとして、それ自身重ねて特殊的でありながら特有の「普遍」利害として、まかり通ることになる。[…]それゆえ、他面では、共同的利害および幻想的な共同的利害に対立してたえず現実に立ち現われる、これら特殊利害の実践的闘争もまた、国家という幻想的な「普遍」利害による実践的な調停と制御を必要とすることになる。pp68-71

・生産諸力は、一定の条件で利用できるようになるが、この条件はまた同時に、社会の一階級支配の条件でもある。この階級の社会的な占有の威力は、国家形態の中にその実践的・観念論的な表現を持つ。
⇒生産様式との連関によって現れる交通形態=市民社会の分析、市民社会の実践的・観念論的な鏡像=国家の分析が必要



本論2
・支配階級の思想:その時代の支配的な思想=支配的な物質的諸関係のイデオロギー的表現 ⇔革命的な思想が存在すると言うことは、革命的な階級がすでに存在しているということ
イデオロギーの抽象化・発展:自分の利害を社会全成員の共同的利害として示し、それを唯一理性的な普遍妥当的な思想として示す
普遍性の位相:(1)身分に対する階級(2)競争、世界交通(3)成員の数(4)共同的利害の幻想(5)イデオローグたちの欺瞞、分業

本論3
・分業の発展……一国の生産力の発展……所有形態の発展
・(1)部族所有(2)共同体所有・国家所有(3)封建的・身分的所有=土地所有+労働の所有(4)近代的所有
・大工業=私的所有と生産様式の矛盾……大工業の発展と共に、私的所有の廃止も可能になる
史的唯物論-世界史

大工業は競争を普遍化し[…]そしてコミュニケーション手段と近代的世界市場を創出し、商業を支配下に置き、あらゆる資本を産業資本に転化し、そのことによって資本の迅速な流通(貨幣制度の整備)と集中を生み出した。大工業がいかなる文明国をも、またそこに住むいかなる個人をも、自らの欲求を充足する上で全世界に依存するようにさせ、個々の国民の旧来の自然発生的な排他性を根絶したこと、この点において、大工業は初めて世界史を生み出した。p164

・大工業=一つの階級としてのブルジョアジー(市民階級)の成立

・自己疎外過程
市民社会と国家……近代国家は、近代的私的所有に全面的に依存。租税・国債・信用。市民社会は、生産力の発展によって社会関係全体を包括し、国家や国民を超え出る。が、対外的には市民社会は国民的なものとして自己を押し出し、体内的には国家として自己を編成する。
・国家……市民社会の外部にある特別な存在。ブルジョアが、自分の所有と利害を保証するために持たざるを得ない組織の形式以上のものではない。国家は、支配階級の共通利害を保証し、市民社会全体が自己を総括する形式であり、そこに法律の源泉も存在する。しかし、それゆえに、法律が自由意志に基づくものであるかのような幻想が生じてしまう。

・法律を自由意志に還元する幻想:契約:ブルジョアの普遍性の表現としての法