08読書日記91冊目 「金融権力」本山美彦

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

会計士志望の友達に借りた本。サブ・プライム問題について門外漢にとっても分かりよく説明されている。

「リスク」というものさえ、時間差による異なる価値体系から引き出される剰余価値の源泉となる。つまり、「リスク」が証券化され、転売されることによって金融化される、という晩期資本主義の事例が、本書から読み取れる。「リスク」という概念について、本山さんは述べてはいないが、それはまさしくU.ベックの「リスク」概念とも重ね合わせて理解されるべきであろう。すなわち「リスク」とは、社会が科学によって支配される対象=自然となるとき、政治は「科学」となり、科学的な「客観性」が選択の基準となるのだが、そのときある事柄Aを行った後に引き起こされるBという事態は予測不可能であり、様々な見解が収束せずに分散する状態になるという性質を持った「リスク」である。

科学的真理さえ、もはや数ある仮説のうちの有力説である、という啓蒙が伝えた理念は、証券化によって普段に変動する市場に投げ込まれた「リスク」がどれほどリスキーなものか予測することを不可能にする。こういった誰でも知っている事実は、ヘッジ・ファンドや証券会社などの金融業界においては、敢えて看過されてきた。すなわち「リスク」証券がいかに「リスク」を負ったものであったかは、金融市場において「真理」を担保する格付会社によって決定されたのである。この格付会社による「格付」がどのように決定されるかは全く不透明で恣意的であると、本書は指摘する。そのような「真理」がどこにもないことを知っていながら、偶然による利益を得ようとしたギャンブラーが、世界金融を堕落させているのだ。

プルードンが引証されていて、それは柄谷のものに近しいと感じさせるが、それよりもむしろ哲学者ルイス・ケルソが提唱するESOPが興味深い。

220p
総計26607p