08読書日記102冊目 「アムステルダム」イアン・マキューアン

アムステルダム (新潮文庫)

アムステルダム (新潮文庫)

初めて読むイアン・マキューアン。薄っぺらで読みやすい。短編小説ながら、複数人物の語り手、実に四人の語り手がポリフォニックに物語を書き進めていく。ポリフォニーに書く、という視点は日本文学には少ない。

マキューアンは、現代イギリス文学の巨匠で、カズオ・イシグロと同じくらい有名だと思われる。日本でも最近は「贖い」という映画が公開したこともあって、『英語青年』では特集を組んだりして、ようやく受容されつつある。小説"atonement"(邦題『贖罪』)もぜひ読みたいと思わせる。ポスト・モダン的ではなくて、イギリスのと言うよりダブリンの伝統を受け継ぐような、心理小説的企みに満ちた小説である。

二人の野心的な友人が、互いの共通の恋人がショッキングな死を遂げた、というところから二人の人生は錯綜していく。筋としたらありきたりなんかもしれんが、僕としては作曲家であるクレイヴに肩入れしながら読んだ。自らの作曲が、死後、完全なる駄作として破棄されることほどつらいことはあるまい。大文字の小説というものがあるとすれば、この人は間違いなくその伝統を受け継いでいるであろう。

211p
総計29789p